先日,調布市内のイタリアンレストランを貸し切りにして開催されたパーティに参加いたしました。会場には,医療関係者をはじめ,弁護士,企業経営者,市内企業の社員,市民,そして行政関係者など約三十名が一堂に会し,和やかな雰囲気のもと,この十年の歩みをともに振り返る,心温まるひとときとなりました。
この会は,「ちょうふタバコ対策ネットワーク」の活動の節目を記念して催されたものです。同ネットワークは,市民による熱意ある提案を出発点とし,医療関係者の賛同を得て,十年前に発足いたしました。喫煙者を一方的に排除するのではなく,喫煙・非喫煙を問わず,すべての人々がたばこの害から守られる社会を目指すという理念のもとに,それぞれの立場から「できることを実践する」ことを基本方針とし,防煙教育や啓発活動など,主体的で地道な取り組みを継続されてきました。
私も,前職において市民から寄せられる受動喫煙に関する苦情に直面していた折,医師会,歯科医師会,薬剤師会,行政,そしてこのネットワークが一体となって設置された「調布タバコ対策推進協議会」の一員として,長きにわたり協議と検討を重ねてまいりました。
当時の調布市では,美化の観点から歩きたばこや吸い殻のポイ捨ては条例で禁止されていた一方,市庁舎や公共施設における禁煙は施設ごとの判断に委ねられており,また,公園や児童遊園においても,子どもたちの傍らで喫煙が行われ,吸い殻がベンチの周囲に散乱しているという状況が常態化しておりました。こうした実情を踏まえ,協議会では市全体としての統一的なルールの必要性を共有し,条例化に向けて大きな一歩を踏み出すに至ったのです。
たばこ対策は,しばしば喫煙・禁煙の立場をめぐり意見が対立し,感情的な議論に発展することもある,極めて難しい政策課題であります。条例制定に際しても,議会の理解と合意形成を得るためには,多くの調整と丁寧な対話が必要でした。しかしながら,協議会の議論は終始冷静かつ建設的であり,「市民を受動喫煙の害から守ること」を最優先に据え,誠実な合意形成が図られました。
検討された条例では,市庁舎をはじめとする市立施設の敷地内禁煙の徹底に加え,駅前広場や京王線各駅周辺を喫煙禁止区域に指定し,違反者には過料を科すことも可能といたしました(現時点では過料は未施行)。さらに,子どもたちの健康を守る観点から,学校や児童福祉施設周辺の路上や通学路における喫煙を制限し,市立公園・広場・緑地等での喫煙も禁止するなど,包括的な内容が盛り込まれました。この条例は,平成三十一年第一回定例市議会において全会一致で可決され,令和元年七月一日に施行されました。
条例施行後は,行政による巡回啓発や注意喚起が継続される中,「ちょうふタバコ対策ネットワーク」の皆様は,各小学校での防煙教育をはじめとする実践活動を地道に続けてこられました。その積み重ねが着実に成果をもたらし,令和元年度に13.0%であった市民の喫煙率は,令和5年度には10.5%へと大きく減少。調布市は現在,東京都や全国平均と比しても,喫煙率の極めて低い自治体のひとつとなっております。令和6年度にはわずかな増加も見られますが,その要因を丁寧に分析し,さらなる対策を講じていくことが今後の課題であると認識しております。
パーティの折,市内の大手企業の方より「当社では採用の条件として禁煙を掲げ,2028年までに社員の喫煙ゼロを目指しています」とのお話を伺いました。かつて喫煙が当然視されていた昭和の時代からは隔世の感があり,現代において「選ばれる企業」となるためには,健康を重視する姿勢が求められる時代であることを改めて実感いたしました。
本稿では,私自身が深く関わってきた受動喫煙対策の歩みを振り返らせていただきました。こうした取り組みは常に複雑な課題と直面し,多様な立場や思いが交錯するなかで,いかに何を大切にし,どのように連携を図りながら進むかが問われ続けてきました。そして私がこの経験から学んだ最も大切なことは,「対話と協働を重ねることで,たとえ困難な課題であっても,必ずや解決への糸口が見えてくる」ということです。
これまでともに知恵を絞り,汗を流しながら取り組んでくださった関係者の皆様に,心より感謝を申し上げます。そして今後も,「笑顔で」「ゆる~く」「協働する」という「ちょうふタバコ対策ネットワーク」の理念を胸に,今後の業務に取り組みたいと思います。
最後に申し添えます。喫煙が健康に深刻な影響を及ぼすことは,医学的に明白に証明されています。いまだ喫煙を続けておられる方がいらっしゃるならば,どうか今すぐにでも禁煙に向けた一歩を踏み出していただきたく,心よりお願い申し上げます。
理事長 伊藤栄敏