理事長便り2025年9月←こちらから内容をご確認いただけます!
近年,我が国全体で人手不足が顕著となっています。特に福祉分野においては介護職員の確保がますます困難となり,現場の疲弊が社会課題として浮き彫りになっています。こうした状況のなかで,雇用の流動化が進展しつつあり,中途採用によって即戦力となる人材の獲得が可能になるという利点がある一方,将来を担う有望な人材が早期に離職することは,組織にとって大きな損失ともなります。
厚生労働省の調査によれば,新卒採用者のうち約3割が3年以内に退職し,1年以内の離職者は5万人を超え,「10人に1人」が1年を待たずに職場を去るという現実があります。昨今では「退職代行サービス」の利用も広がり,入社初日に退職を申し出るといった報道も耳にします。こうした現象の背景には,転職が当たり前となった時代の空気感や,企業側の過度な引き止め対応に対する反発もあると指摘されています。また,職場環境に対する期待と現実とのギャップや,職場内での人間関係が原因で,早期退職に至るケースが増加しているとも言われています。
当法人においても,4月に入職した新人職員のその後の様子を注視しており,業務への適応状況,利用者との関係性,職場内での人間関係への馴染み具合などが気がかりなところです。そのような中で,6月から7月にかけて,理事長面接を実施いたしました。面接では,入職から3か月を振り返っての自己評価,所属長の評価,OJTの受け止め方,今後の目標,健康状態などについて直接話を聞く機会を設けました。
自己評価については,「分からないことが多く,自分に厳しい評価をせざるを得ない」という職員がいる一方で,「自分なりに全力で取り組んだ自負がある」として高く評価する職員もおり,それぞれの真摯な姿勢が伝わって来ました。上司からは,「利用者との関わりを丁寧に行い,反省点を糧に前向きに取り組んでいる」「周囲を見ながら計画的に仕事を進めており,意欲が感じられる」といった高評価の声も聞かれました。
一方で,「電話応対が想像以上に難しい」「事務作業の多さに戸惑っている」「分からないことがあっても,周囲が忙しく質問のタイミングが難しい」との声も少なくなく,新人職員が現場の忙しさの中で自ら工夫し,吸収しながら前進しなければならない厳しさが窺えました。
健康面では,「週2日の休日では疲労が抜けない」「休日はほとんど寝て過ごしている」「体調を崩して休んだ」といった声が複数あり,社会人生活への移行期における心身の負担が少なからず存在することも分かりました。それでも,「周囲の方々が親切に教えてくださるので,毎日楽しく働いている」という職員が大半であったことに,私自身,深い安堵と喜びを感じました。面談の最後には,「ぜひこれからは自分の目の前の業務にとどまらず,広い視野を持って多くのことに挑戦し,成長していってください」とエールを送りました。
当事業団では,「地域への公益的な取組み」を柱の一つとして掲げ,災害時の被災地支援,フードドライブへの協力,障害のある方へのリクルート・冠婚葬祭用スーツの貸し出しなど,職員の声を反映した多様な活動を展開しています。これらの取組みは,職員が「自分の仕事が誰かの幸せにつながっている」という実感を持つことで,仕事への誇りとモチベーションの向上に寄与しています。
また,長く働き続けるためには「仕事以外の生活」が尊重される職場環境が不可欠です。研修制度や福利厚生制度の充実に加え,結婚・子育て・介護といったライフステージに応じた支援については,職員による「両立支援プロジェクトチーム」が,相談窓口の周知や職員同士が気軽に話し合える座談会等を企画,実施しています。
当事業団は,子どもたちや障害のある方の日常生活を支えると同時に,職員が自らの成長を実感できる職場づくり,働きやすさを実現する環境整備に力を注いでいます。その結果として,当法人の年間離職率は3%(令和5年)であり,同種の他の法人(民間企業は18%,社会福祉法人は13.7%(令和4年))と比較しても低い水準を維持しています。これまでの地道な取組の成果であり,今後も持続可能な職場づくりに向けて,全職員が一丸となって取り組んでまいります。
理事長 伊藤 栄敏